2月上旬 新作脚本「地味な脳内2025」公開!
「SHERLOCK」、ブログ最終回。Season2に入り、伝説のEpisode1そしてEpisode3を扱います。極めて魅力的な敵キャラ・モリアーティがどのように輝くか。そして物語はどこに'着地'するのか。最後まで胸の高まりが止まらない。今回もよろしくお願いします。
'A scandal in Belgravia'
いやねえ、この回ほんとに凄いんだよ。全シリーズの中でもとっておき。何が凄いかというと、シャーロックの推理という世界線と、アイリーン・アドラーの恋愛という世界線が融合し綱引きをしてアンチテーゼ・ジンテーゼを形成し、シャーロックが負けたように見せつつも「あの一言」で全てをひっくり返すところだ。端的にしたつもりだが、何も端的になっていない。ちなみにこの回は、BBCの元旦夜にやっている。日本でもこういうのをやってほしいものだ(相棒なんてしている場合ではない)。
結局電話でモリアーティは帰り、勝負は持ち越しとなる。モリアーティの電話する相手がアイリーンという女性であることを見せ、彼女のステータスを表す。
出会い
バッキンガム宮殿にマイクロフトから呼ばれた2人。なぜかシャーロックはバスローブ1枚で裸で来る。これは一見キャラからして突飛すぎる気もするが、そこには3つの理由がある。この後のアイリーンと裸であるのを合わせること。久しぶりのシーズン2で改めてシャーロックの固定。そして宮殿と姿で落差をとって、コメディにして笑わせる。ここでは恋愛に興味なさそうなシャーロックのアークが固定され、一種の欠点になっている。
ここからは、シャーロックとアイリーンのそれぞれがカットバックする。写真で互いを見る。服を合わせ、アイリーンの家に向かい、会う。これはまさしく、お見合いののステップに合わせている。そして彼女の悩みは、後の伏線として貯まる。
アイリーンは、まさかの全裸で現れる。たくさんのクローゼットから最大の勝負服である全裸を選択したわけだ。「どんなオチだよ!」とツッコミたくなるほど面白い。アイリーンのキャラの固定が上手く、そしてうろたえるシャーロックを楽しめる。しかも裸である意味はこれで終わらない。
突如周りに集団が現れアイリーンらを包囲。シャーロックは金庫を開けなければならない状況に追い込まれる。彼は最後に閃いて金庫を開け、なんやかんだで撃退する。その数字は、アイリーンのスリーサイズだった。なんでセンチ単位でわかるんだよ、つーかシャーロック裸見てるじゃねえかとツッコみたくなるが、そこは彼の超人性により突破されうる。なかなか無駄がない。
その後、シャーロックはアイリーンと2人になり、データの入ったケータイの画面を見る。これが全体を貫く謎になっている。しかし彼は彼女に眠らされ、敗北する。価値は別れ、マイナスへ。ここはまやかしの勝利が消える、確実なMPである。
一方アイリーンは心の中で、彼が教えた自爆ブーメラン殺人事件を解く。アイリーンの理性を見せ、2人が共通点を持っていることを示す。
囚われるシャーロック
家で目覚めたシャーロックは普段とは異なる状況になり、'the woman woman'(あの女してる女)を求める。アイリーンの世界を経験した彼は、今もなお囚われたままで、調子が悪い。
クリスマスパーティーが家で開かれ、様々な人が集まる。これは舞台設定である。その中でシャーロックはモリーが自分に告白しようとしていることを推理し、彼女をぶっ壊す。証拠は読めるが空気は読めない、これがあのラストに対照している。彼はこのことからも学んだわけだ。価値軸はマイナスへとただ悪化していく。基本的にこの回は、プラスに転じるスポットがあの最後までない。
そしてアイリーンが再登場する。シャーロックをメールで誘惑するが、衝撃を受けていた彼は返事ができない。そして、彼女とワトソンが会っているのを目撃する。一体どうなっている? と混乱しつつ彼は立ち去る。メールにHappy new yearとだけ返す。
空っぽの飛行機
シャーロックは、アイリーンの携帯のパスワード推理に勤しむ。ここで221Bと打って外すことで、あと1回と物理的に追い込むと共に、最後「おいパスワードって普通数字だろ」という批判をかわしている。
ここで彼女が彼の家を訪ね、相談する。彼女から数字を見せられた彼は、圧倒的な推理でそれが飛行機のチケットであることを特定し急行する。しかしそこにあったのは空の飛行機と、マイクロフトだった。
この飛行機は爆弾テロの標的だったが、情報源を相手にバラさないため警察や公的機関を動かさない。だからマイクロフトはアイリーンを通じてシャーロックに突き止めさせた。アイリーンはゲームをしていたのだ。
この辺の論理は非常に細かく込み入っていて難しく、書き間違えていたら申し訳ない。他方このことにより、情報を漏らした彼女の危険度は一気にアップする。
I am SHERLocked
マイクロフトとアイリーンともども家に帰ってきたシャーロック。ここから、彼の反撃が始まる。彼は、彼女がゲームにのめり込むあまり自分のことを好きになったと言い出す。は? という彼女に証拠を示す。この間脈を測ったら上がっていたという、予想外だが解剖医らしい手段で堀を埋めるが、決定打にはなり得ない。しかしアイリーンの想定外を突くものだった。今までの男はもっとバカだったからだ。
そしてシャーロックは、携帯のパスワードを解く。'I am SHERLocked'!
…おい天才か? 受動態だよ。シャーロックされたんだよ。
ここまで苦境にあったシャーロックが、一気に自分の世界線で優位を取り、アイリーンを引き込む。しかも自身の推理という世界を、彼女の恋愛という世界へと融合し包含しているのである。これこそテーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼの例である。この時間をかけても描く難易度が高いことを、たった4文字で成し遂げてしまったのが、このトラックの人間離れしたところだ。
アイリーンは彼に許しを乞い、シャーロックは彼女とのディナーを断る。返事がちゃんとできるよう成長した!
The woman, the woman.
そしてラストへ。アイリーンがとある組織に殺される。ワトソンは、そのことを別れたショックを受けるシャーロックに隠すが、死ぬ直前に彼女は彼にメールを打っていた。グッバイと。そして最後のシーン、アイリーンが殺される直前にシャーロックが助けに来るシーンが入る。これは、カップルにありがちな別れなかった未来を想像する時間であり、2人に共感性を与えている。
アイリーンは死ぬという葛藤、シャーロックは仕事に戻らなければならない葛藤により、彼らの究極目標は叶わない。彼女は彼によって弱体化させられたわけだが、彼女にはそれを受け入れる潔さがあった。一方彼は、初めての恋愛的駆け引きを心の中に留めておくことで、彼女は救われる。切ない。天才たちの恋愛は私たちのものよりアクロバティックすぎたね、というのが程よく分かったところで物語は完結する。
episode2'the Hounds of the Baskervilles 'はブログの尺の都合でカット。
'The Reichenbach Fall'
episode3、シーズン2の終わり。既に尺が切れているので細かくは書けないが、この回はむしろ悪役のモリアーティがどうシャーロックを追い込んでいくのか、どう彼が追い込まれていくのを楽しむ回。情報を流してきた警察に「彼が自作自演してたんじゃないか」と疑わせたり、シャーロックに難しい暗号を伝えたと思わせておいて、実際ただの交響曲のリズムだったり。
最後の対決のシーンで、彼だけでなくワトソンやハドソン夫人といった人物を巻き込み、生死という物理的な葛藤で+/ーを往復し煽る。追い込まれたシャーロックには打つ手がないように見える(見えるだけ)。最後にはモリアーティが自分で自分を撃つ。そして他人が殺されないように、ワトソンに遺言を残し、ビルの屋上から飛び降りる。
この回は倒叙方式となっており、最初ワトソンがカウンセラーに「シャーロックが死んだ」と打ち明ける。そして最後、一部始終を目撃したワトソンは悲しみに暮れ、彼の墓地に花を手向ける。彼が去った後、カメラの前にシャーロックが現れる。これは文脈的に、実体(生きてた)とも幽霊とも取れる設計になっている。しかし視聴者は、このシーンでシャーロックの頭脳的な強さを認識し、彼は「生きている」とはっきり覚える。
つまり物理的には生から死へと向かったが、私たちが抱く印象は死から生へと逆転するのだ。この価値の重ね合わせが、絶妙な読後感を出している。
さて今回のブログは、ここで力尽きます。Episode31話は、シャーロックがいかに生き返るかまでの物語。トリックは少々荒い気もするが、2人の再会に目が離せない。そしてepisode4では、薬物に溺れ共感性の高まったシャーロックが登場。ぜひ皆さんにも物語の全貌を見届けてほしい。
次回(新年)からは、1年ぶりに坂元裕二「anone」を扱います。#1で一気に1話から5話まで行くので、予習推奨。
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