【アンナチュラル#2】のキャラを“徹底解剖”ー後編

前回でミコトと六郎のキャラクター解説まで終わったので、今回は中堂とラストの敵役2人について語っていきます。

 

中堂系

「クソが!」でお馴染み中堂。セリフから人物の強力な固定を図っている。

葛藤:恋人を殺した犯人を見つけ出したい

><・法医学の限界、安定運転 ・(9話ラスト)証拠を燃やし、罪を立証することのできない犯人

彼が存在していることによる論理の安心感、成立は大きい。6話の「電気信号で全身が麻痺して死に至る」のところの、彼の存在感ある説明はその例だろう。説明だけ聞くとすごく突飛だが、彼に言われると不思議と疑わなくなってしまう。

序盤では、ミコトが2話に早々亡霊を打ち明け、視聴者に近い存在に、六郎もちろん近い存在と言ったのと対照的に、中堂は何を考えているのか分からない、遠い存在として描写される。1話のスタートでは、中堂がどんな人物かというので話を引っ張っていた。UDIに寝泊まりしていたり、一種人間離れした描写となる。

中盤に向けてミコトが中堂の過去を探り、協力しようとすることが、ラストへの貫通したストーリーの軸を支える。8話のラストに存在する、中堂「散々手伝ったんだから、少しは手伝え」ミコト「……(表情が緩む)了解」のシーンは、中堂の変化を明確に表しており、ミコトの努力が通じたハッピーエンドでもある。サブテクストの力。

5 話で中堂は勝手に被害者の家族に加害者の存在を伝えることで、殺人未遂を引き起こした。ミコトがそれを責めると、中堂は「素人は刺す場所を分かってない」と言い捨てる。このことが10話で、本当に宍戸を殺してしまうのではないかという伏線になっている。これがなければ、中堂が本当に殺すとは考えづらいだろう。メインキャラだし。もっと言えば、5話から10話での出来事のラストの差を見せることによりキャラクターの変化を視聴者に見せている。

そしてついに9回の半ばで回想シーンを挟み、中堂の心情を視聴者に分かる形に転換した。六郎に「彼をどう思っていいのか分からない」と質問を言わせて、カバーを図っているのも見逃し難い。

終盤に向けて、中堂が追ってきた事件をUDIチーム全員で解明するというのがストーリーの軸となる。

10話では中堂が宍戸を殺してしまうのではないか、というのがミコトの葛藤に続いて、中盤を支える葛藤となっている。

さて、これで3人の解説が終わったわけだ。葛藤の分類4種類と言われる、物理的葛藤、社会的葛藤、人間関係の葛藤、個人の内面の葛藤。この4つが3人によって全て使用されていることに気づいてもらえただろうか。これが全体のストーリーを支えているのである。だから、何かの脚本を書いていて葛藤がわからなくなり不安になった時は「アンナチュラル」に立ち返るべきだと自分は結構言っている。

敵役

主人公チームが三人なのに対応するために、敵役も高瀬と宍戸の2人に分裂している。

ドラマにおいて、最後における敵役がどう出てくるかはパターンであり、①味方内から裏切りが出てくる②途中まででちょろっと出しておいて、 犯人としてもう一度出す③全く関係ないところから出てくる、である。

高瀬は8話の火事の被害者で、入院している時のアリバイと死亡推定時刻の重なりが論理で解けることで容疑者となる。②と③のミックスのような形だ。

まあ古今東西、さまざまなところで①〜③が試されているわけで、当然それぞれの弱点も見えている。テンプレ化するから一般の視聴者に離れられてしまう。①視聴者が疑心暗鬼になる→感情移入が阻害される、脚本家のご都合主義になりがち②ご都合主義で結果と論理が逆転し、「こいつ真犯人でいいよね」という雑な帰結になりがち→価値を持たない③そもそもミステリでは御法度。という感じ。

野木さんはミックスすることでそれぞれの欠点を超えた。最後には高瀬が犯人である必然性が取れるし、「被害者ズラしやがって」という視聴者の感情も乗る。「誰やねんこいつ」ともならない。

脚本家は誰も思いつかないようなミラクル展開を出し、視聴者を惹きつけると思われがちだが、いかんせん近年はそうも言っていられない。選択と結果の帰結で2つに展開を分けておき、それをもう一度行って4択、8択、16択……とやって確率を下げ、“考察”を避けることしかできない。つまり視聴者も、このように選択肢を全て書き出して分析するということが必要になってくるということだ。

高瀬は現行の法律の穴をついた、法を超えているような存在。(この点はケイゾクの朝倉やSPECのニノマエと共通点を見出せる)。法医学者として不自然な死を無くすことを究極目的とするミコトとしっかり対照的なキャラクターであり、ミコトがギリギリ勝てなそうな感じも出ている。非常に完成度の高い敵役である。

一方の宍戸は、高瀬をネタに記事を書くことで金を儲けている。高瀬に比較して社会的、倫理的な悪であり、六郎に対応する敵役となっている。六郎に対して週刊誌内でも地位が高く、六郎の反撃も許していない。ギリギリしかししっかりと悪役に勝てない形になっている。こちらもきちんと対応しているわけだ。

中堂は彼女を殺した犯人を捕えることが究極目的なので、2人両方が、むしろこの2人が結託していることが、障害となっている。この2人を組み合わせることによって、より多くの葛藤の種類を描き切ることができ、三人への共感をより深める結果となっている。

次回から各話のストーリー解説に入ります。

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